暑さの中で



うだるような暑さだった。
放課後の教室でカヲルくんを待っていると、公立の中学校故にクーラーなんてものはなくて暑くて暑くて汗がどうしても滴り落ちてしまう。
汗をかくのはちょっと好きじゃない。
帰ったらシャワーを浴びたいな。

「カヲルくんまだかな」

さっき先生に放送で呼び出されて、多分4〜5分で帰ってこれるから待っててと言われてからもう20分も経っている。
待つのは嫌いじゃないけれど、何かあったのかってちょっと心配になるなぁ。
放課後に教室でカヲルくんと音楽の話でついつい盛り上がってしまったから、とっくにクラスの人たちはいなくなり、外は落ちる太陽で真っ赤に染まっている。
僕はぼんやりした視線を窓の外に向けながら、自分の机に頬杖をついた。
夕方なのにどうしてこんなに暑いんだろう。
カヲルくんどうしたんだろう。あ、分ったきっと加持先生に捕まってるんだな。
あの二人最近いつも楽しそうに何か喋ってるのを見かける。
だからどうって訳じゃないけれど。僕が待ってる事忘れちゃったのかなぁ。
カヲルくんに限ってそんな事はないと思うけど、もしかして。
そこまで色々グルグルとりとめのない事を考えてると机に影が差した。

「シンジくん、待たせてごめん」

申し訳なさそうな甘い声に僕はパッと振り返る。

「カヲルくん。そんなに経ってないよ。大丈夫」

そこには紅い夕日と柔らかく調和したカヲルくんが音もなく立っていた。
すごくすまなさそうな顔をしていたけれど、それよりも紅い夕日を映した銀色の髪や肌、夕日そのもののような瞳に見蕩れてしまう。
なんて綺麗なんだろう。
カヲルくんの綺麗さを表現するには僕の語彙はあまりに少なくて、『綺麗』という単語しか思い浮かばない。
というよりも下手に中途半端な美辞麗句で表現するよりもカヲルくんには『綺麗』という単語が一番似合っているのかもしれない。

「シンジくん?なんだか大分汗をかいているみたいだね」

カヲルくんに見蕩れている間にいつの間にかカヲルくんが近くなっていて、驚いて身を引こうとすると、少し冷たい手が腰に回され逆に引き寄せられる。
そんな僕の動揺を見てカヲルくんは紅い目を少し細め軽やかに笑った。

「な、なに、いきなり」

僕は思い切りドキドキしているのにカヲルくんは余裕な感じでそれが更にまた胸が苦しくなる。
なんとかして冷静な自分を保てる距離を作ろうとしているのにカヲルくんの腕はがっちりと僕を捕らえていて離してくれない。
ああ、また暑くなってきた。どうしよう。

「鎖骨に汗が……」

驚きで固くなる僕に構わずカヲルくんは頬に軽くキスしてきた後、僕の首筋に唇を寄せたみたいで暖かい息がかかった。

「ひゃっ……」

くすぐったくて体がぞくぞくして変な声が出て恥ずかしくなって自分が真っ赤になっているのを自覚する。
どういうつもりなんだろう。僕がこんなに恥ずかしいになんで離してくれないんだろう。
探るように少しの間顔を上げたカヲルくんの紅い目を涙目になりながらも抵抗の意味も込めて睨んだのに微笑まれる。

「舐めて良い?」
「だ、だめ!」

何のことかよく分らなかったけれど、恥ずかしくて胸が苦しくてもうやめて欲しいからすぐに否定したのにカヲルくんは唇の柔らかい感触を僕の鎖骨まで持ってくると、いたずらのように少し歯を立てた後、その目よりも赤い舌を出して僕の鎖骨を舐めた。
湿った熱いカヲルくんの舌を視覚的にも触覚的にも認識して、周りの温度が僕の限界を超えて上がったように感じられる。
足が震えて椅子に座っていて良かったと思う。
カヲルくんのシャツを掴んだ手もみっともないほど震えていた。
自分でもよく分らないくすぐったいような感触がカヲルくんの舌が僕の鎖骨を舐めるたび走り抜けてもうどうしていいか分からなくて逃げる事さえ頭から消えていた。

「不思議だね、シンジくんの汗。とても……おいしい。ほら……」

涙でかすんだ視界にカヲルくんの紅い目が一杯に広がって、今度は唇に柔らかい感触を感じてしばらくした後、キスされてるんだと思い当たって、パニックに陥って、手を突っ張って離れようとしたのに顎を掴まれて更に深くキスされる。
カヲルくんの舌が僕の舌に押し付けられる。湿ってヌルッとした舌が生々しくて。

「……っ、ふ……」

暑さと苦しさと極度の緊張で限界を超えてボンヤリしてきた頭で、味なんて分からないと思う。
カヲルくんは僕をからかっているんだろうか。

「ね、おいしかったでしょ?」

カヲルくんは多分ほんの数分なんだろう、でも僕には長く感じられるキスからようやく僕を解放してくれてにっこり夕日をバックに鮮やかに笑った。





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